2014年 09月 01日
この連載は平成18(2006)年10月から1年余に渡って東京新聞に掲載、さらに出版されて大反響を呼んだ『東京慕情-昭和30年代の風景』(東京新聞出版局)の再録版です。この中の一編「東京タワー誕生秘話」は「優れた実用文」として平成26年4月より高校教科書(現国)に採用され、全国1200校、20万人の教材にもなっています。しかし残念ながら、現在は絶版でこの本を手に入れることが困難な状態です。そこで出版元および著作権者、著者の許可をいただき、Web版としてご紹介するに至りました。 昭和30年代、日本は敗戦から奇跡の復興を遂げ、高度成長へ向かって新しい息吹を始めた時代でした。天空に伸びる世界一の東京タワーはその象徴でした。人々の暮らしはいまだ貧しく質素でしたが、向こう三軒両隣には助け合う人情が残り、街の商店街も銭湯も活気にあふれ、紙芝居を迎える子どもたちの歓声が響き渡ったものでした。一生懸命、おおらか、親への感謝、教師と子どもの深い絆…そんな言葉が日々の暮らしに生きていた時代でした。 著者は、そんな時代を慈愛に満ちた温かい眼差しと記者時代に磨き抜ぬいた卓越した文筆力で描き、30年代の昭和の風景に味わい深い彩りを添えています。貧しくも懐かしく、そして活気に満ちた「あのころ」を思い出し、戦後の日本を語り伝える上でも貴重な資料として、後世に残していきたい一冊です。 追記: このブログを管理させていただきます私は、著者が東京新聞の特別編集委員で活躍された何年間か(平成26年6月末退職)、キャビネットを挟んで背中合わせに座っておりました。田中氏は黙々と、しかしどこか楽しげに膨大な資料をくくり、時には虫眼鏡で写真の背景を覗き込んでいる姿は、まさに文筆の職人という気を発しておりました。現役社員として50年3ヶ月(昭和39年、東京五輪年入社)の経歴はまさに稀有の記者歴といえるでしょう。 これまでに「慕情」の兄弟編ともいえる「焦土からの出発」や「富士異彩」(新聞協会賞受賞)をはじめ幾冊もの著作があり、どれも大きな反響を呼びました。いつもさらりと気負わず、誰に対しても平らに接しておられた人柄は、美しく年を重ねる見本のようであり、それはそのまま彼の取材姿勢や文章に表現されているような気がしてなりません。 これからも多くの人に読まれ継がれますことを願い、随時コラムの掲載を増やしていきたいと思います。 (※公開は順不同になる予定です) ■ ■ ■ 目 次 ■ ■ ■ 東京タワー 揺れる天空で決死の塗装 (2014.9.1 公開) ●昭和30年代の風景① 集団就職・上 繁栄支えた若者の涙と汗 (2014.9.8 公開) 集団就職・下 『あゝ上野駅』望郷の応援歌(2014.9.19 公開) ●昭和30年代の風景②[不安と期待の門出] 街頭紙芝居 夜の病室 最後の“独演会” (2014.10.1 公開) 第二松江小 一円募金で生まれた校歌 (2014.10.7 公開) ●昭和30年代の風景③[遊び] 蟻の町マリア 極貧に捧げた 28歳の青春 (2014.10.17 公開) ●昭和30年代の風景④[小学校] 月島追悼 元気な子願って 裸騎馬戦 (2014.10.29 公開) 狩野川台風 水没の町 孤軍奮闘の若者 (2014.12.26 公開) ●昭和30年代の風景⑤[料亭のある街] 新内流し舟 大川端に響いた粋な歌声 (2015.1.22 公開) お化け煙突 下界の人が豆粒に見えた (2015.2.10 公開) 佃島物語・上 激変の情景 消えゆく古老 (2015.2.24 公開) 佃島物語・下 幼なじみを結んだ赤い糸 (2015.3.24 公開) ●昭和30年代の風景⑥[銀座かいわい] 深川木場・上 木の香匂い立つ 新春の街 (2015.4.7 公開) 深川木場・下 江戸の粋を誇った『川並』 (2015.4.14 公開) 渋谷駅界隈 屋上にクジラを泳がせろ (2015.5.14 公開) ●昭和30年代の風景⑦[駅の見える情景] 大森海苔・上 300年の伝統 万感の終焉 (次回公開予定) 大森海苔・下 一家が雑誌に 故郷は大騒ぎ タロとジロ 極寒の南極で奇跡の生存 東京スタジアム 光り輝いた 下町の名球場 目黒平町寸景 波乱の50年 失われた風景 砂町銀座 毎日がお祭り騒ぎだった ゴジラ伝説 熱狂人気支えた“陰の主役” 九段坂 伝説の大女優が住んだ街 ゼロメートル地帯 家より高い所を船が通った ●昭和30年代の風景⑧[街の情景Ⅰ] 渋谷恋人横丁 切ない恋心 代筆で橋渡し 田植え風景 見渡す限り 緑の水田だった 浅草仁丹等 帝都の驚異『十二階』を投影 修学旅行 枕投げ合った 夜の大部屋 新宿駅南口 激変の街 今では幻の風景 新橋駅西口 変転の戦後史 見続けた広場 祐天寺寸景 ごみ収集に活躍した大八車 池袋西口マーケット 活力と怪しさ秘めたカスバ ●昭和30年代の風景⑨[水辺の情景] 東京バスガール みんな憧れた 成長時代の華 ハエ騒動 自衛隊が火攻め 夢の島炎上 六本木界隈 華やかな進化 風化する記憶 玉電と三軒茶屋 愛されて消えたペコちゃん 世田谷昔風景 農道の花嫁 母と顔見せ回り 環7高円寺陸橋 街を引き裂いた 五輪道路 壕舎暮らし 復興の陰に残る戦禍の跡 遊びの記憶 子供はみんな風の子だった 水上小学校 五輪の陰に消えた舟人たち 耐寒マラソン 母親恋しさにみんな泣いた 雷門今昔 あの方が有名な荷風先生よ ●昭和30年代の風景⑩[街の情景Ⅱ] 旧葛西橋遠景 希望と活力にあふれた日々 神田神保町 戦前の面影残す 棟割り長屋 徳丸田んぼ 見渡す限り黄金の海だった 伝説の日々 飛躍の陰に悲しみの光景 牧場物語 牛車水没 あわや全域の危機 多摩川染め物 厳冬の水洗い 布の体も凍った ●昭和30年代の風景⑪[若者たち] 思い出のわが家・上 9人が身を寄せ合って寝た 思い出のわが家・下 坂道広場で夕暮れまで遊んだ 汐入の渡し 隅田川に消えた名物渡し守 女性車掌さん 御客の上に ドスンと尻餅 苦難の日々 お母ちゃんはたくましかった 浅草屋台通り 灯火の路上 哀愁のダンス #
by tokyobojo
| 2014-09-01 08:00
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アバウト
著者プロフィール
田中哲男(たなか・てつお) 昭和39年東京新聞(中日新聞東京本社)入社。社会部、特別報道部などを経て横浜支局長、特別報道部長、東京中日スポーツ総局長、編集委員などを歴任。自著・共著に「富士異彩」(平成7年度日本新聞協会賞)「翔べカルガモの子よ」「今どきの若者たち」「荒川新発見」など。平成16年、東京新聞創刊百二十年を記念して横浜の日本新聞博物館で「創刊百二十年展」を担当、同時に本紙の歩み「日々激動」を長期連載、出版。近著に「焦土からの出発」。平成19年度中日新聞社特別功労賞。東京生まれ。
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